肺癌の治療成績を向上させるためには、病変が小さいうちに治療することが必要です。CT検査の精度向上に伴い、小さな末梢肺病変が発見される機会が増えておりますが、小さすぎて透視下に識別できない場合は気管支鏡による検体採取は困難です。将来根治手術を考えるのであればCTガイド下生検は避けるべきであり、強く悪性を疑うことができれば胸腔鏡的肺生検を選択しますが、結局はCTによる経過観察を余儀なくされることもしばしばです。小さい病変に気管支鏡を確実に到達させることは、現在の呼吸器疾患診断学における大きな課題の一つです。2007年に発表されたAmerican College of Chest Physicians肺癌診断治療ガイドライン(第2版)によれば経気管支的検査法は直径が2cm以下の末梢肺病変では正診率は34%であると記されており、その精度を上げるために更なる研究が望まれています。この課題解決に向けて、現在まで、国内外で3つの新しい技術が開発されました。イスラエルのSuperDimensionは磁気センシング技術を使って処置具を挿入するためのシースを病変まで到達させる技術を開発し、既に医療機器として欧米で販売され診療に使われています。この装置は、まだ日本には上陸しておりませんが、侵襲性が問題と考えます。国内では、2007年8月にオリンパスから ガイドシース・気管支腔内超音波プローブシステム が発売されました。ガイドシースは一旦病変部へ留置されると、サンプリングを容易に繰り返すことが可能になりますので大変有用です。そして、2008年8月には同じくオリンパスから仮想内視鏡自動作成ソフト(Bf-NAVI)が発売され、仮想気管支鏡サムネイル式ナビゲーション法が臨床応用可能になりました。このような世界の開発状況にあって、当院でも2001年から末梢肺病変へのアプローチ法の研究に着手し、SuperDimensionやオリンパスとは異なる独自の方法を開発してきました。以下にその紹介をさせて頂きます。詳細につきましては2008年9月に発表されたこちらの論文もご参照下さい。
極細径気管支鏡の挿入やガイドシース挿入のナビゲーション法としては、仮想気管支鏡動画で気管支ルートを「前分岐相対方位法」で命名する方法を開発しました。この方法では観察視野が粘膜密着や粘液等で失われない限りどのような予期せぬ回転があっても正確に分岐選択が可能です。
直径2.8mmの極細径気管支鏡を使うようになって直面した課題は、鉗子が小さすぎて充分な量の検体が採取できないということでした。この課題を解決するために歯科のH-FILE(らせんの切り込みが入った直径0.4mmのヤスリ)を応用した穿刺型細胞診器具「CYTROKE-H」を開発しました(日本国特許取得済み 第4338712号)。この器具はまだ市販されていませんが、大変有用な器具と考えられますので、今後共、改良と臨床的検討を進め、商品化を目指したいと考えています。
CYTROKE-H
動作全景(動画) ハンドルと先端の拡大(動画)
マルチスライスCTの進歩で気管支ルートは内径1~1.5mm程度まで解析が可能になりました。その情報を有効に活用するためには気管支鏡側の更なる進歩が必要です。直径2.8mmの極細径気管支鏡より細いものとしては、現在、外径1.9mmの超極細径気管支鏡(町田製作所製)がありますが、そのワーキングチャンネル(0.5mm)用の処置具はありません。論文の考察にも記しましたが、末梢肺病変の経気管支的ピンポイントサンプリングを実現するには、まだ以下のような課題が残されています。
1)仮想内視鏡が末梢ではクリアな映像として作成できない。
CTデータの部分体積効果問題の解決が必要。
2)スリガラス病変の位置は通常のレントゲン透視では確認ができない。
CTガイドやCT透視に代わる新しい技術開発が必要。
3)病変が気管支粘膜表面に出ていない状況ではサンプリングは困難。
鉗子・ブラシとは別のメカニズムのサンプリング器具が必要。
これらの課題解決に向けてこれからも挑戦して行きたいと考えています。3)の課題については、CYTROKE-Hは大変有望な処置具と考えています。
呼吸器内科主任部長 飯島秀弥
呼吸器内科部長 進藤百合子
内科医長(総合診療科・呼吸器内科) 須田祐司