登録医会

 

2018.06.16

平成30年度講演会

日 時 平成30年6月16日(土)午後5時30分
場 所 仙台勝山館
演 題 「なぜ亜鉛は健康維持に必要なのか?」
演 者 徳島文理大学薬学部 病態分子薬理学研究室 教授 深田 俊幸 先生

亜鉛は鉄に次いで多い必須微量元素であり、その欠乏は、成長遅延・骨密度低下・免疫不全・皮膚や腸管上皮などの発生、形成、維持等に様々な異常をもたらす。亜鉛の恒常性制御の異常が、糖尿病・腎臓疾患・アルツハイマー型認知症などの様々な生活習慣病と関わりがあること、老化や手術によって生体内の亜鉛量が低下することなどが多方面から報告されるようになり、亜鉛の健康と病気における関連に注目が集まっている。近年のヒトゲノム解析によってヒトの約1割の遺伝子が亜鉛結合ドメインをコードすること、亜鉛を輸送する亜鉛トランスポーターによって制御される亜鉛が情報を伝える因子:「亜鉛シグナル」として機能することが判明し、多様な細胞機能における亜鉛の重要性が明らかにされつつある。さらに、最近の亜鉛製剤の保険追加適用によって、医療機関において亜鉛への関心が今まで以上に高まりつつある。

本講演では、「亜鉛がなぜ健康維持に重要であるのか」について、国内外の最近の情報をもとに紹介する。さらに、国際亜鉛生物学会(http://iszb.org/)および日本亜鉛栄養治療研究会(http://zinc-nutritional.kenkyuukai.jp/)を初めとする諸学会の活動内容も交えて、亜鉛の健康における役割・病気への関与・創薬に関する今後の展望について議論する。

2017.10.05

平成29年度 秋季勉強会

日 時 平成29年10月5日(木)午後7時
場 所 ホテルメトロポリタン仙台 演 題 「途上国の現状と国境なき医師団の活動」 演 者 国境なき医師団日本 元会長 臼井 律郎 先生

国境なき医師団(Médecins Sans Frontières,MSF)の活動地は主に発展途上国であり、中でも、最貧国と呼ばれる国々が 集中するサハラ砂漠以南のアフリカや、激しい戦闘が継続しているアラブ世界の国々で多くの活動が行われている。これらの地域では、水、食料、医療など必要最低限の資源が日常的に不足していることが多く、自然災害、疾病の流行や紛争などによって容易に危機的な状況が出現し、多くの住民が生命の危機に直面することとなる。MSFの活動は、先進国における通常の医療機関の役割にとどまらず、自然災害や避難民発生時のシェルターの設営、飲料水・食料の確保、伝染性疾患の予防・治療や流行への対応、戦傷者の治療など多岐にわたる。また、これらの活動地でみられる病態は先進国とは大きく異なっており、栄養失調、エイズ、マラリア 、コレラ、髄膜炎、エボラ、多剤耐性結核などの疾患への対応や、銃や爆発物による負傷者の治療などが必要とされることも少なくない。

近年の国際医療援助の変遷を見ると、20年前にはアフリカでのエイズ治療は非現実的だと一般に考えられており、この大陸への治療導入に強く反対する勢力も存在した。現在では、アフリカにおいて、5歳以下の乳幼児を含め一千万人以上が抗レトロウィルス薬投与を受けている。マラリアに対しては 、過去十数年の間に、薬剤耐性マラリアにも有効なアーテミシニンが 多くのアフリカ諸国で標準治療薬とされ、犠牲者数の減少に大きく寄与している。 2005-6年のニジェールでの経験などから、食糧危機への対処法も大幅に見直され、今日では、最貧国での大規模な食糧危機にも対応できる態勢が確立されている。同様に、2014年のエボラ危機を経て、人類はようやくエボラに有効なワクチンを手にし、今後の流行に対してより効果的に対応できる可能性が示唆されている。このように、近年の国際医療援助には多くの改善点が見られる一方、多剤耐性結核や、熱帯病と呼ばれる疾患の多くは依然重大な脅威であり続けており、さらに、近年、東南アジアで増加しつつあるアーテミシニン耐性マラリアに関しては、感染が他の地域に拡散した場合には適切な対応が可能とは言い難い状況にある。

また、中東などの紛争地においては、最近、医療施設や医療従事者が攻撃の対象とされる事例が増えており、施設の維持・運営が困難となって、戦傷者のみならず一般の診療をも断念せざるを得ない事態が増加している。2015年には、アフガニスタンのMSF病院がアメリカ軍により繰り返し空爆を受けて完全に破壊され、患者さんとスタッフ42名が犠牲となったが、アメリカ軍は不幸な偶然が重なった事故であったとし、誰一人法の裁きを受けないという事例が発生している。医療従事者の安全に関する問題は、現在、国際医療援助の発展を大幅に制限する要因の一つとなっており、国際人道法に基づく人道援助の正当性・重要性を国際社会に広く周知するなど、今後、少しでも状況を改善するための努力が重要であると考えられる。

2017.06.17

平成29年度 登録医総会・特別講演会

日 時 平成29年6月17日(土) 午後5時30分
会 場 仙台 勝山館 4階 彩雲の間
演 題 「ニュートリノと宇宙」
演 者 東北大学ニュートリノ科学研究センター 教授 井上 邦雄 先生

宇宙で最も多い物質粒子、天体をも突き抜ける透過性でとても観測が難しい素粒子、それがニュートリノです。電気的に中性(ニュートラル)で小さく軽いことから日本語では中性微子、イタリア語でニュートリノと呼ばれています。これまで3種類のニュートリノが見つかっており、長距離を飛行中に別の種類に変化する不思議な性質を持ちます。このニュートリノ振動といわれる性質は、日本の研究を中心に解明され、ニュートリノに重さがあること示しています。素粒子理論では素粒子には必ず反粒子が存在し、それらは真空から対で作り出せると同時に、お互いが出会うと消えて無くなります。マイナスの電荷を帯びた素粒子の一つである電子の反粒子は、陽電子といわれプラスの電荷を持ちます。正反対の電荷を持つことから明らかに別の粒子です。一方、中性のニュートリノは粒子・反粒子の区別がなくてもよく、その場合は理論提唱者の名をとってマヨラナ性を持つといいます。

マヨラナ性を持つニュートリノに重さがあれば、「宇宙・素粒子の大問題」の大半を解決できることから、現在マヨラナ性の検証が非常に注目されています。「宇宙・素粒子の大問題」とは、無から生じた宇宙に反物質がなく物質ばかりがある「宇宙物質優勢の謎」、ニュートリノが他の素粒子より極端に軽い「軽いニュートリノの謎」、そして宇宙に未知の物質がたくさん充満しているという「暗黒物質の謎」です。ニュートリノのマヨラナ性を検証する方法は、「ニュートリノを伴わない二重ベータ崩壊」しかないと考えられています。二重ベータ崩壊は2つのベータ崩壊を同時に起こす特殊な原子核反応で、原子核内の小さな領域に2つの電子と2つの反ニュートリノが同時に作ります。マヨラナ性があれば反ニュートリノ同士が出会っても消えてしまうことが可能で、それを「ニュートリノを伴わない二重ベータ崩壊」といいます。非常に稀な現象であるため、たくさんの二重ベータ崩壊核を放射性不純物の無い環境で監視する必要があります。

東北大学が主導するカムランド禅実験は、大型で極低放射能のニュートリノ観測装置カムランドを活用し、低コストかつ迅速に世界最高感度でのニュートリノを伴わない二重ベータ崩壊探索を実現しました。目標の現象は未発見ですが、もし発見されるならカムランド禅が最初となるはずです。その大発見が実現すれば、宇宙・素粒子の大問題の大半は解明され、この世界の起源の解明に大いに迫れることでしょう。今後の進展にご期待ください。

2016.10.14

市場原理と医療:米国の教訓から学ぶ

日 時 平成28年10月14日(金) 午後7時
会 場 仙台勝山館
演 題 「市場原理と医療:米国の教訓から学ぶ」
演 者 一般財団法人 大原記念財団 大原綜合病院 内科部長 李 啓充 先生

日本の医療制度の特質をひと言でまとめると、「非常に安いお金で、世界一の成果を上げてきた効率の良さ」となるだろう。たとえば、国全体の医療の成果を「長生きの度合い」で見たとき、日本の高齢化率(総人口の中で65歳以上の人が占める割合)23.02%はOECD加盟34ヶ国中第一位であり、日本は、世界のどこよりも長生きができる国となっている。

一方、高齢者は若年者と比べるとどうしても有病率が高く、OECD加盟国の平均で見たとき、高齢化率の高さと医療費支出(対GDP比)の多さとの間には正の相関が成立する。しかし、日本は例外で、高齢化率がトップであるにもかかわらず、医療費は対GDP比9.5 %(OECD加盟国中10位)と極めて低く抑えられている。

高齢化率と医療費支出が正比例するという法則のもう一つの例外が、医療を市場原理に委ねてきた米国である。高齢化率は13.09%(OECD第28位)と1990年代初めの日本のレベルにとどまっているにもかかわらず、医療費支出は対GDP比16.4%とダントツの第1位であり、極めて効率の悪い医療を展開しているのである(数字はいずれもOECD調べ、2010年)。

「効率の悪さ」に加えて、医療を市場原理に委ねたときの弊害の第二は「アクセスの障害」である。日本で医療へのアクセスが憲法で定められた「生存権」の下で保障されているのとは対照的に、米国では、医療へのアクセスは「権利」ではなく、「特権(お金を払った人だけが受けられるサービス)」となり、「病気になってもお金がないので医療を受けられない」という悲惨な事例が後を絶たないのである。

近年、日本でも、「米国式に、医療に市場原理を導入し、『公』(保険診療)の部分を減らして『民』(保険外診療)を増やせ」とする主張が声高に叫ばれているが、効率の悪化を招いて医療費支出がさらに増大するだけでなく、国民が医療にアクセスする権利が損なわれる危険があることは強調されなければならない。

 

2016.06.04

いのちについて ~小児科医として~

日 時 平成28年6月4日(土)
会 場 ホテルメルパルクSENDAI
演 題 「いのちについて ~小児科医として~」
演 者 聖路加国際病院 顧問 細谷 亮太 先生

 

緩和医療は、終末期医療(ターミナルケア)の柱とも言うべき治療法です。その当否は、ひとえに医療者と患児の家族、そして患児本人の理解と合意の存否にかかっています。患児や家族が前に述べた実験的医療や代替医療を希望しているのに無理矢理説得して緩和医療を行おうとしても、うまくいきません。私たち医療者はまず、医師・看護師・ソーシャルワーカーなどから成るチームにおいて話し合い、医療者側の意見を統一させます。そのうえで、家族と今後の治療のさまざまなオプションについて話をします。

終末期医療の話をすると、家族は医療者から見捨てられるのではないかという不安を抱きます。そのように考えるのも道理かもしれません。すなわち、数のうえではずっと多い成人のがんの領域では、患者さんが、がんセンターなどの先端医療施設にかかっていても、標準治療を受ける要件(治療への参加基準、eligibilityといいます)

を満たさなくなると、「私たちの施設は標準治療を受ける患者さんのために存在しているので、あなたはもはや私たちの施設では対応できません。家の近くにある、がんを専門としない施設に行くか、あるいはホスピス(主にがんの終末期医療を専門に行っている施設)に移ってください」などと言われることが多く、小児がんの患者さんの家族もそのような話をよく聞いて知っているのです。

緩和医療では本人の生活の質(QOL)を徹底的に重視することになります。すべての決定は患者さんの都合でなされることになります。通常、化学療法などの積極的治療は放棄されますが、たとえば腫瘍が大きくなりすぎてQOLを落としているような場合には、症状を軽減させることを目的に化学療法が行われることもあります。また、骨への転移により痛みがひどい場合には放射線照射が行われることもありますし、胸水により呼吸が苦しくなった場合には胸に針を刺して水を抜く、といった外科的な処置が必要になることもあります。さらに貧血がひどくて疲れてたまらないときには輸血も行われます。このように、緩和治療と言っても一概に積極的な手段を止めてしまうわけではありません。

とは言え、緩和医療でもっとも大事なことは痛みを取ることです。従来、国内ではモルヒネなどの麻薬は積極的に用いられていませんでしたが、麻薬こそは緩和医療の枢要です。WHO(世界保健機関)の定めた小児に対する鎮痛薬の投与指針が示され、最近では国内でも麻薬を含む鎮痛剤が惜しみなく使えるようになってきたのは、終末期の患者さんにとってもまさに福音と言ってよいと思います。麻薬はさまざまな投与方法も可能になっており、経口投与、点滴投与、座薬、皮膚への貼付(パッチ)など

何でもあります。作用時間もさまざまで、痛いときに飲んですぐに効くものもあれば、一日に二回だけ飲めばよいというものもあります。

医療者は、患者さんのみならず家族の支援もしていかなければなりません。子どもの死という、通常では考えられないような運命を前にしている家族は、まさに未曾有の困難に直面していると言えます。医療者のみならず、病院の保育士、学校の教諭、チャイルドライフスペシャリスト、宗教家などを巻き込んだ包括的なケアを、不断に協議しながら展開させていく必要があります。

まだ国内では実践例が少ないものの、在宅医療の道も探られるべきです。患児にとって最も落ち着く場所は、やはり自分の家を除いてはありえません。訪問看護制度を用いて在宅死を迎えた場合の満足感はとても高いことが知られています。

 

2015.10.13

ロボットによる月惑星探査への挑戦

日 時 平成27年10月13日(火) 午後7時
会 場 仙台勝山館
演 題 「ロボットによる月惑星探査への挑戦」
演 者 東北大学大学院工学研究科 航空宇宙工学専攻
教授 吉田 和哉 先生

 

私は、小学校時代にアポロ11号の月面着陸をリアルタイムで見ていた世代である。大学院在学中「宇宙で活躍できるロボットを開発する」というテーマに出会い、以来30年間にわたって宇宙ロボットの研究を行っている。

1995年に東北大学・航空宇宙工学専攻の助教授として着任し、新しい研究室の立ち上げを行った。初期の頃には学生とともに米国ネバダ州の砂漠を駆け回るロボットの実験などを行ってきた。それがその後の研究活動の原点となった。また、コミック「宇宙兄弟」のエピソードとしても採用された。

2003年に打ち上げられ2010年に無事地球に帰還した小惑星探査機「はやぶき」では、小惑星イトカワの表面へタッチダウンしてサンプルを採集する技術開発に参加し、成功へと導く貢献を行った。2011年3月に発生した東日本大震災に際しては、宇宙探査ロボットの技術を災害現場など人が近づけない危険な場所で活躍するロボットへ応用し、原発対応ロボット「クインス」の開発に貢献した。放射線の強い環境ではロボットは正常に機能しないのではとの声もあったが、衛星開発の経験を活かすことができた。宇宙環境も放射線が強い環境であり、そのような環境での電子機器の耐性を評価するノウハウが役立った。

研究室では独自の超小型衛星を開発することへの挑戦も行っており、特に、2014年に打ち上げられた「雷神2」では、地上分解能5mという高解像度のカラーやマルチスペクトルの画像撮影に成功するなど、50kg級超小型衛星としてクラス世界最高性能の成果をあげつつある。

2010年より、探査ロボットを月面に送り込む国際レースであるGoogle Lunar XPRIZEへの挑戦を開始し、日本からの唯一の参加チーム「HAKUTO」(ハクト、白兎)を技術開発リーダーとして率いて挑戦を続けている。
ロボットには自律性が必要であるが、完全自律である必要はない。危険回避のような基本動作や、人がやりたいことをアシストする機能が備わった上で、人からの指令(監督)に従順に従うロボットが望ましい。月惑星のような人が行くことができない世界を探査するロボットの遠隔操縦でも、手術支援ロボットの操作においてもこの考え方は同じである。

月をめざすチーム「HAKUTO」は、2016年から2017年ごろに月探査ロボットを打ち上げることを目標として開発を進めている。開発の様子は、http://team-hakuto.jp/ 等でもご紹介しているので、ぜひご覧いただきたい。同ページ内で「プロジェクトに参加する」のボタンを押していただけると、「サポーターズクラブ」「パートナー」への窓口へとつながっている。皆様の心温かい応援/サポートをお待ちしています。

吉田和哉
http://www.astro.mech.tohoku.ac.jp/
https://www.facebook.com/Professor.Kazuya.Yoshida

 

2015.06.20

生殖医療 現状と問題点

日 時 平成27年6月20日(土)
会 場 仙台勝山館
演 題 「生殖医療 現状と問題点」
演 者 医療法人社団スズキ病院 スズキ記念病院
院長 星 和彦 先生

 

はじめに

2010年のノーベル生理学・医学賞は、イギリスの RG, Edwards 博士に授与された。ヒトの「体外受精-胚移植」(in vitro fertilization and embryo transfer ; IVF-ET) を世界で初めて成功させた功績に対してであるが、IVF-ET が不妊症の一般的な治療法として定着したことも評価されたと考えられる。

 

IVF-ET の臨床応用

ヒトでの IVF-ET  の試みは、実験動物での成功を受けて、1960年代に入ってから開始されたと思われる。ルイーズ・ブラウン嬢の誕生という朗報がもたらされたのは1978年イギリスからであった。36歳の卵管性不妊症の女性に対して行われたもので、報告したのは Steptoe & Edwards である。

 

IVF-ET われわれの取り組み

イギリスでの IVF-ET 成功の衝撃は大きく、わが国でも東北大学をはじめいくつかの大学で臨床応用への準備が開始された。

日本初の成功は 1983年にわれわれが東北大学から報告した。17症例目、35回の trial の結果であった。4例の IVF-ET による妊娠が東北大学で確認された後、慶応義塾大学 / 東京歯科大学グループ、次いで徳島大学から妊娠成功が伝えられた。

 

顕微授精法・卵細胞質内精子注入法 (intracytoplasmic sperm injection : ICSI)

IVF に要する精子数は卵子1個あたりおよそ50,000個と極めて少ない。そのため IVF-ET は男性不妊症にも応用される。しかし、必要とする 50,000個の精子も回収できない重度の男性不妊症は想像以上に多いことがわかっている。このような症例では IVF-ET といえども無力である。そこで男性不妊症に対する「新たな体外受精法」、いわゆる「顕微授精法」(micro-insemination) が検討されるようになった。

様々な「顕微授精法」が考案されたが、その中から「卵細胞質内精子注入法」 (intracytoplasmic sperm injection : ICSI) の確実性・安全性が立証され、「顕微授精法」といえば ICSI といわれるようになった。世界で初めての ICSI による児の誕生は 1992年 Palermo et al. (ベルギー) が報告しており、本邦ではわれわれが 1994年に福島県立医科大学で成功している。

 

生殖医療の現状

イギリスで世界初の体外受精児が誕生してから37年が経過し、「生殖補助医療技術」(assisted reproductive technology : ART) で誕生した児は、世界中で500万人を超えている。2012年の統計によるとわが国では1年間に約3万8000人の新生児が誕生している 。日本で生まれる 27人に1人は ART の恩恵に浴していることになる。しかし、問題が無いわけではない。他人の精子や卵子を用いたり、第三者の子宮を借りて妊娠するという事例も増加している。そして、様々なトラブルが毎日のようにマスコミに採り上げられている。

 

これからの生殖医療

35年前「体外受精-胚移植」の臨床研究に取り組んでいた頃には、現在のような「生殖医療」の状況は全く予想出来なかった。

今から35年後の「生殖医療」も全く想像出来ない。「再生医療」が導入され、体細胞から「配偶子」が作られるようになっているかもしれないし、着床前遺伝子スクリーニング (preimplantation genetic screening : PGS) は当たり前、遺伝子改変胚「デザイナーベビー」が現実になっているかもしれない。いずれにせよ慎重な検討は不可欠と考えます。

 

2014.10.23

実地医家に役立つ死体検案とAi(Autopsy imaging)

仙台オープン病院登録医会 秋季勉強会
日 時 平成26年10月3日(金)午後7時
会場 ホテルメトロポリタン仙台
演 題 「 実地医家に役立つ死体検案とAi(Autopsy imaging) 」
演 者 日本警察医会副会長 川口病院 院長 川口 英敏 先生

日本では東京都などの一部の地域にしか監察医制度がないために、ほとんどの都道府県でいわゆる“警察医”と呼ばれている一般臨床医が警察の要請を受けて異状死体の死体検案を行っています。死体検案によって死因、死亡時刻、死因の種類などを明らかにして正確な死体検案書を作成することは死者の権利を守るとともに、犯罪の発見や犯罪の見逃し防止のために極めて重要です。“警察医”は法医学を専門としている訳ではありませんが、異状死体を最初に診る医師として大きな社会的責任を担っています。

一方、最近の救急医療制度の充実により、救急医療現場における死体検案が増加しており、一般臨床医にとっても死体検案は身近なものとなってきています。本日は、熊本県警察から嘱託を受けた“警察医”として、および救急病院の臨床医としての二つの立場から、これまでに経験した事例を中心に死体検案とAiの実際についてお話をさせて頂きます。異状死体をどこで検案するか、誰が検案するかは、死体の発見場所や死体現象の有無によって異なります。一般的には、死体現象が出現していない場合には救急搬送されるために、搬送先の救急病院内で死亡確認後、病院内で警察による検視と救急医による死体検案が行われます。一方、明らかな死体現象が出現している場合は、発見現場や近隣警察署内の霊安室で、生前に死者を診ていた医師、あるいは近隣の“警察医”が検案を行います。死体検案の基本は、1)外表検査、2)既往歴などの捜査情報、および現場で実施できる3)後頭下穿刺による髄液検査などの簡単な医学的検査でしたが、当院では平成10年から、4)死後のCT撮影を取り入れ、平成13年からは心臓関連の生化学検査として、5)心筋トロポニンT検査、平成14年からは、6)BNP定量、さらに平成20年からは、7)NT-proBNP定量などを利用しています。心臓関連の検査としては、トロポニンTは死後変化があることが分かってきたため、死後変化が少ないと思われるホルモンであるNT-proBNPが、より有用な検査となりうると思っています。

当院で実施した検案におけるCT検査数の割合は、1998年は15.4%でしたが、徐々に上昇して2007年頃より約50%となり、2011年は66.7%、2012年は86.8%、2103年は79%となっています。最近2~3年のCT検査率の上昇は、以前から実施していた院内でのCPAOA事例でのCT検査に加えて、警察がご遺体を当院に搬送し、CT撮影後に検案を行う事例の増加によるものです。熊本県警が取り扱う異状死体全体でも、死後のCT検査率は、2007年では14.9%でしたが、2012年は62.8%、2013年は59.9%に上昇しています。

また、大規模災害などにおける死体検案は通常とは異なる対応が必要であり、地元の警察医会や日本法医学会など、災害規模により組織的に対応しなければなりません。そのためには持続的な訓練が重要です。熊本県の場合、熊本県総合防災訓練と熊本空港航空機事故消火救難総合訓練において熊本県警察、熊大法医学、熊本県警察医会および熊本県歯科医師会が連携して検視訓練を継続的に行っています。

平成25年4月には死因究明関連二法案が施行され、異状死の死因究明体制における検査などが明文化され、それを実施する検案医の役割がさらに重要となります。現在、日本医師会におかれましては、検案業務を医師が行う医業として再確認して頂き、死体検案研修会、Ai研修会をはじめとして、検案医の養成に力を入れておられます。それに伴い、私ども日本警察医会が以前より日本医師会に警察医の全国組織設立をお願いしていましたが、平成27年1月10日には日本医師会内に警察医の全国組織設立を予定される事となり、私ども日本警察医会も、それに協力する形で発展的に解散することを決定しています。

何れにしても、死体検案は医師が行う医学的検査であり、死後のCT検査(Ai)や生化学的検査などの有用性を確立して、最終的には「検案医療」として医療の一部に組み込まれ、より正確な死体検案が実施できる制度の確立が望まれます。

 

2014.07.28

iPS細胞技術が可能にする新しい医療

平成26年度登録医会総会・特別講演会

日 時  平成26年6月28日

会 場  勝 山 館

演 題 「 iPS細胞が可能にする新しい医療 」

演 者 東京大学医科学研究所幹細胞治療研究センター長 幹細胞治療分野 教授  中 内 啓 光 先生

 

21世紀の新しい医療として注目されている再生医療の成功の鍵を握るのが幹細胞である。代表的な多能性幹細胞であるES細胞は試験管内での増殖能でも、また多分化能の点でも最も高いポテンシャルを持つ幹細胞であるが、受精後1週間程度の胚を利用して作製するため患者からES細胞を作ることは難しく、倫理的な問題も伴う。ところが最近iPS細胞作製技術が確立され、患者由来の多能性幹細胞を容易に造り出すことが可能になった。

iPS細胞はヒト細胞の新しいソースとして創薬や毒性試験に利用できるだけでなく、献血に代わる血小板や赤血球等の供給源として(Nakamura et al. Cell Stem Cell. 2014)、あるいは遺伝子矯正治療や若返りさせた抗原特異的T細胞による新しい免疫療法(Nishimura et al. Cell Stem Cell. 2013)といった、全く新しい遺伝子・細胞治療を可能にする。さらに我々は腎臓や膵臓といった実質臓器の再生を目指し、動物個体内でiPS細胞由来の臓器を作出することを考えた。

既にラットiPS細胞由来の膵臓をマウス個体内に作成することに成功しているが(Kobayashi et al. Cell. 2010)、小型動物で示された原理がブタのような大型動物でも適応できるかを検証するため、遺伝子導入と体細胞核移植により膵臓欠損ブタを作成し、蛍光遺伝子トランスジェニックブタの胚細胞を移入して胚盤胞補完を行ったところ、胚細胞由来の膵臓を持ったブタが誕生し、正常に生育することを見出した (Matsunari et al. PNAS. 2013)。

これらの結果は臓器発生の機構を理解するための新たな方法論を提供するとともに、将来的に異種動物個体内でヒトiPS細胞由来の臓器を再生するといった、全く新しい再生医療技術の開発に貢献するものと期待される。

2013.10.25

登録医会秋季勉強会

仙台オープン病院登録医会 秋季勉強会

 と き:平成25年10月22日(火)午後7時

ところ:勝山館

 日本の国のかたち  

  -鎮守の杜と日本人の心の原風景-   

 仙台大学客員教授・宮城県図書館顧問    

 伊 達 宗 弘 先生

 

  

 

 

四海を海に囲まれ、自然災害に度々見舞われた日本人は、それを克服しながら粘り強い国民性をし、歴史や芸術・文化を時間をかけて熟成してきた。また四季の存在は、豊かな感性を育み、日本語の語彙(ごい)を豊かにし、優れた日本文学も育んだ。加えて木や草を素材とした家に住み紙一枚で外と接する生活を通し、自然の移ろいや鳥や虫の声にも常に親しみを感じその一つ一つのにも心躍らせる感性を培ってきた。生きとし生けるものに限りないしみをもって接し、大自然の一員として謙虚に振る舞うすべを心得ていた。

 今日の日本の伝統的な生活の大部分の原理を生み出したのは稲作であり、共同作業を通してお互いに助け合いながら生活をしてきたのである。稲作とは無縁な人たちの多い今日でも祭や、年中行事をはじめとするさまざまな儀礼においても形を変えながら稲作を基盤に生み出された信仰や呪術を継承している。

 神霊のまる場所として「鎮守の杜」がある。神社には森があり、神社境内の木々の中にも立派な老木がの対象となってきた。鎮守の杜は、地域の人々にとって神と交わる場所であり、情報交換の場であった。現在においてもそこで繰り広げられる祭りなどを通して、地域の人々の交流と賑わいの場を与えている。その神聖でな空間は、これからも人々にやすらぎと静けさを与え続けてくれることだろう。
 さらに日本独自の文化を育んだ背景には、千百年前、菅原道真の建言によって遣唐使が廃止されたことにより、国風文化が花開いた。とりわけ仮名文字の発明は女性や庶民が文学や歴史の上で活躍する基盤となった。室町時代には北山文化、東山文化が花開いた。能や茶道、華道、侘び、さびの世界が創出されるが、戦国時代に大きな危機に直面した。

  江戸幕府を開いた徳川家康は風流や趣味のための学問ではなく国を治めるために論理としての学問、倫理としての学問を重んじこれを奨励し、結果として朝野に多くの知識人を輩出した。江戸時代の泰平の二百数十年は、国風文化、北山文化、東山文化がさらに昇華され、また庶民の手によってさまざまな芸術・分化が花開き、世界に冠たる日本の文化を創り出したのである。閉塞感が漂っている時代だからこそ、先人の築いてきた歴史や文化を振り返り、誇りと自信を取り戻す必要があるのではないだろうか。

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