特別講演会

登録医会

特別講演会

日時 令和元年6月15日(土)午後5時30分
場所 仙台 勝山館
演題 「高齢者のメンタルヘルス -うつ病と認知症ー」
演者 東北福祉大学せんだんホスピタル 浅野弘毅先生
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高齢者の精神疾患の代表はうつ病と認知症である。うつ病は発症がゆっくりで2~4週間かけて進み、次第に元気がなくなり抑うつ、悲哀感に包まれる。思考は抑制され、興味関心が失われ活力が感じられなくなる。行動制止も顕著で意欲も失われる。

うつ病はどの年代でも出現するが、高齢者では、①心気的訴えが多い、②めまい、しびれ、排尿障害、便秘などの自律神経症状がめだつ、③気分の落ち込みはめだたない、④不安、緊張、焦燥がめだつ(焦燥うつ病)、⑤妄想をともなう、⑥認知症もどき(仮性認知症)になる、⑦自死の危険が高い、という特徴がある。

うつ病がひどくなると、何事につけ悲観的で、自分を責める内容の妄想(罪業妄想)や、職を失って家計を支えることができなくなるという妄想(貧困妄想)や、不治の病に襲われたという内容の妄想(心気妄想)をもつこともある。うつ病の治療は、①休養、②薬物療法、③日常生活の助言、④カウンセリング、を適宜組み合わせて行う。長期化した場合には家族の協力も欠かせない。

一方、認知症は、①記憶の障害(もの忘れ)、②時間・場所・人物の見当識の障害、③判断力の低下、によって④日常生活に支障を来している状態と定義される。

認知症の症状は、①中核症状(記憶障害、見当識障害、判断力低下)と、②行動・心理症状(精神症状・行動異常)に大別される。中核症状は、程度の差はあれすべての人にみられ、疾患の進行とともに悪化するので、神経細胞の脱落にともなう能力の喪失と考えられる。他方、行動・心理症状は、見られない人もいるし、必ずしも疾患の重症度(進行)とは比例しないので、本人・環境・介護者の要因が複雑に絡み合って出現するものと考えられている。

わが国の代表的な認知症は、①アルツハイマー型認知症、②血管性認知症、③レビー小体型認知症、④前頭側頭型認知症の4種類である。各々は症状に特徴があり、したがって関わり方も異なってくる。

認知症の治療は非薬物療法および/または薬物療法のうえに、適切なケアを組み合わせて行う。近年、認知症の人たちが声をあげて「日本認知症ワーキンググループ」を立ち上げ、2018年11月には「認知症とともに生きる希望宣言」を公表し、2019年1月には「認知症の人基本法」の制定を訴えている。

これからは、認知症の人の声に耳を傾け、認知症の人の尊厳に配慮して、認知症になっても誰もが安心して暮らせる社会を構築することが課題となろう。